大判例

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仙台高等裁判所 昭和29年(ネ)76号・昭29年(ネ)77号 判決

控訴人等代理人は「原判決中控訴人等敗訴の部分を取消す、被控訴人等の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする」との判決を求め、被控訴人等代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴人等代理人において「不動産に対する処分禁止の仮処分はこれを不動産登記簿に記載することによつて効力を生ずるものであることは民事訴訟法の規定するところであつて、本件仮処分の登記嘱託書が戦時登記特別手続令によつて申請書綴込帳に編綴されても、これによつて同法の規定を動かし得るものでなく本件仮処分は結局控訴人等にこれを対抗し得ないものである。」旨述べ、控訴人本田代理人において「本田富男が被控訴人等主張の宅地を昭和二十五年九月一日控訴人本田守男に売渡し同年十一月二十九日その所有権移転登記を経由したことはこれを争わないが、戦時登記特別手続令中改正勅令は昭和二十四年中すでに廃止されたから、同令による編綴の効力は消滅したものであつて、従つてその後に行われた右売買により取得した控訴人本田守男の権利は同令による編綴によつて影響を受けるものでない。」旨述べたほか、原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

青森市大字大野字北片岡百七十七番第二十四号宅地六百四十一坪が元小堀多作の所有であつたことは当事者間に争がなく、当裁判所において成立を認める甲第一乃至第四号証、原審における被控訴人工藤典巳本人尋問の結果により成立を認める甲第八号証及び右本人尋問の結果を綜合すると、被控訴人等は昭和二十年九月五日小堀多作から右宅地のうち中央部北方の百四十三坪七合(別紙図面<省略>記載(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(イ)の各点を順次直線で連結した範囲内の土地でこの部分はさきに小堀多作が種市敏行と売買契約を締結したものであることは当事者間に争がない)を除くその余の四百九十七坪三合を代金三万円で買受け、その所有権の移転を受け、小堀多作においてこれにつき被控訴人等に対し所有権移転登記をすべき義務を負担したことが明かである。

次に被控訴人等が小堀多作に対し本件宅地四百九十七坪三合に対する所有権移転登記請求権保全のため青森地方裁判所に右土地を含む前示宅地六百四十一坪(本件宅地四百九十七坪三合の部分は未だ分筆登記されていなかつた)に対する処分禁止の仮処分を申請し、同庁昭和二十一年(ヨ)第十号不動産仮処分命令申請事件として審理された結果、昭和二十一年五月二十一日右処分禁止の仮処分命令が発せられ、右仮処分命令正本が同年五月二十六日小堀多作に送達されたことは当事者間に争がない。不動産に対する処分禁止の仮処分は裁判所がその禁止を登記簿に記入させるため登記の嘱託をしその登記簿に記載されることによつて仮処分執行の効力を生ずるものであるが、当時登記事務所管の青森区裁判所においてその備附の登記簿は昭和二十年七月二十八日戦災により焼失したため、当時施行の昭和二十年勅令第三百九十九号戦時登記特別手続令中改正勅令第四条の二により登記嘱託書は同区裁判所備附の申請書綴込帳に編綴すべきものと定められていたので、右仮処分命令についても青森区裁判所にその登記嘱託がされ昭和二十一年五月二十三日同令によりその登記嘱託書が同区裁判所備附の申請書綴込帳に編綴されたことは、この点も当事者間に争がない。右編綴があつたときは登記すべき事項については編綴の時に登記があつたと同一の効力を生ずるものであることは同令第四条の二第四項の規定により明白である。尤も本件仮処分の登記嘱託書編綴に関しては控訴人等においてその効力を争うところであるから以下この点について順次判断する。

一、控訴人等の原判決事実摘示第一の一の主張について案ずるに、本件宅地六百四十一坪に対する処分禁止の仮処分が昭和二十三年三月十九日前示申請書綴込帳より登記簿に移記され、右土地に対する小堀多作の所有権保存登記と共に登記簿に記載されたことは当事者間に争がなく、成立に争のない乙第一号証によると、その後昭和二十五年十二月二十二日右所有権保存登記及び仮処分登記のいずれもが抹消され同日登記用紙の閉鎖されたことが明かである。しかし成立に争のない甲第五号証の一乃至九によると、右宅地六百四十一坪については、右登記簿移記に先だちすでに昭和二十二年六月四日小堀多作のために所有権移転登記の回復登記が受理されていたことが明かであつて、右昭和二十二年六月四日の登記が右宅地六百四十一坪の登記の効力を有するものであることは明かであるから、前示昭和二十三年三月十九日移記の登記は同一不動産につき二重にされた登記でその許されないものであることを免れないものである。前掲乙第一号証によると、右昭和二十三年三月十九日移記の登記は結局抹消されたのであるが、右は該登記が登記官吏の錯誤によるものとして抹消されたものであることが明かである。右昭和二十三年三月十九日移記の登記の成立及び抹消の事由は右のとおりであつて、右抹消は本件仮処分がその効力なく又は消滅したために抹消されたのではないから、本件仮処分の登記嘱託書編綴がなおその効力を有するものである限り(この点は後の判断参照)右移記の登記が抹消された故をもつて直に本件仮処分の登記の効力がないものとはいわれない。又右抹消による登記用紙の閉鎖は結局登記簿移記のなかつた状態に復したものであることが明かであるから、編綴の効力もこれより当然もとに復するもので、その一旦登記簿に移記されたことにより編綴の効力が消滅しもはやもとに復し得ないものということはできない。この点の所論はその理由がない。

二、控訴人等の原判決事実摘示第一の二の主張について案ずるに、本件仮処分の登記嘱託書が前示のように申請書綴込帳に編綴された以上、仮に控訴人等主張のようにその編綴の前に所有権回復登記申請書が編綴してなくその編綴の順序に不当の点があつたとしても、これによつて右嘱託書の編綴がその効力のないものということはできない。論旨もその理由がない。

三、控訴人等の原判決事実摘示第一の三の主張及び控訴人本田守男の当審における改正勅令廃止による編綴の効力消滅に関する主張について案ずるに、前示戦時登記特別手続令中改正勅令第四条の二によれば仮処分登記嘱託書が申請書綴込帳に編綴された後同条第三項に定めた期間が満了したときは登記官吏は遅滞なくその編綴した書面に基き登記簿に記載することを要することが明かであり、又昭和二十一年五月六日司法省告示第三十三号、昭和二十二年五月二十三日同第二十四号によると、右期間は結局昭和二十二年十月三十一日までと定められたことが明かである。しかし登記官吏が右期間満了後遅滞なく登記簿に記載すべき義務を怠つたとしてもこれによつて直に右編綴の効力が失われるものとはいわれない。又右改正勅令が昭和二十四年六月一日廃止されたことは明かであるが、同令によつてした不動産登記に関する手続は同日以後不動産登記法の相当規定によつてした手続とみなされるのであつて同法により依然その効力を有するものというべきであるから、同令の廃止によつて直に右編綴の効力が失われたものということはできない。しかして前掲甲第五号証の一乃至九、乙第一号証、本件記録及び弁論の全趣旨に照して考えると、本件において登記官吏が右期間満了にかかわらずなおその登記簿記載をしないとしても未だ右の説明を排して特に前示編綴の効力を失わしめるに足るものでないと解するを相当とする。論旨もこれを採用することができない。

四、控訴人等の原判決事実摘示第一の四の主張について案ずるに、本件宅地六百四十一坪につき昭和二十二年六月四日小堀多作のために所有権移転登記の回復登記が受理されたことは前示のとおりであつて、これを登記簿に記載するに当つて本件仮処分の登記が記載されなかつたことは前掲甲第五号証の一乃至九によつて明かである。本件仮処分の登記嘱託書がすでに昭和二十一年五月二十三日申請書綴込帳に編綴されたことは前示のとおりであるから当然これに基き登記簿に記載さるべきものであつて登記官吏がこのことなく単に右小堀多作の所有権移転登記の回復登記を登記簿に記載したのみで仮処分の登記記載をしなかつたことは過誤たるを免れない。しかしこれがために右仮処分の登記嘱託書編綴により仮処分の登記がされたと同一の効力を有することに消長を来すものとは認め難く、依然その効力を保有するものと解するを相当とする。

しかるところ小堀多作は昭和二十二年六月一日本件宅地六百四十一坪を控訴人蛯名ちよに売渡し同年六月四日その所有権移転登記が受理され、控訴人蛯名ちよは右宅地を被控訴人等主張のように九筆に分割の上昭和二十二年十二月十三日その分筆登記をし、そのうち百七十七番四十号宅地六十九坪九合八勺及び同四十三号宅地七十四坪一勺を自己名義に保有し、残余のうち同二十四号宅地六十五坪八勺を控訴人千葉勝之進に、同三十六号宅地七十坪を控訴人鈴木三郎に、同三十七号宅地五十四坪一合四勺を控訴人吉岡市三郎に、同三十九号宅地九十二坪四合九勺を控訴人間山つゑに、同四十二号宅地百六坪三合五勺を控訴人本田守男の前主本田富男に各売渡し、同控訴人等において昭和二十二年十二月二十三日以降昭和二十三年一月二十九日までの間にその所有権移転登記を経由し、右本田富男は更に本訴提起後の昭和二十五年九月一日右四十二号の宅地を控訴人本田守男に売渡し同年十一月二十九日その所有権移転登記を経由したことは当事者間に争がない。しかし本件仮処分の登記嘱託書編綴によりその時にその登記があつたと同一の効力を生じその効力が現に保有されていること前示のとおりである以上、仮処分債務者たる小堀多作がその後控訴人等に対してした前示処分行為従つてその後本田富男がした前示売買行為は、たとえそれが前示改正勅令第四条の二第三項の期間満了後のことで又控訴人等において善意であつたとしても、すべて仮処分債権者である被控訴人等にこれを対抗し得ないものといわなければならない。されば小堀多作から本件宅地四百九十七坪三合を買受けその所有権の移転を受けた被控訴人等は、右土地の真実の所有者として控訴人等に対し右土地に対する控訴人等名義の登記の抹消登記手続を求め得るものというべく、従つて被控訴人等は右抹消登記に代え登記名義を真実に符合させるため被控訴人等所有名義に移すことにつき控訴人等に協力を求め得るものというべきである。よつてこの点の控訴人等の所論も採用することができない。

五、控訴人等の原判決事実摘示第二の一及び二の主張につき案ずるに、控訴人等の本件登記が利害関係人の承諾書を添附することなくそのまま申請を受理記載されたものであるとしても、これによつて本件仮処分の登記嘱託書編綴による登記の効力を否定するに足るものではない。又被控訴人等の本訴請求は、被控訴人等が本件宅地四百九十七坪三合の真実の所有者としてその登記名義人である控訴人等に対しその登記名義を被控訴人等所有名義に移すことの協力を求めるものであつて、控訴人等主張の権利変更の登記又は更正登記を求めるものでないことは被控訴人等の主張に徴しこれを頷し得るところである。よつてこの点につき所論の不動産登記法第五十六条、第六十三条の二又は前示改正勅令等違反の不当あるものとは認められない。論旨もその理由がない。

六、控訴人等の原判決事実摘示第三の主張については控訴人等の主張の是認されることは原判決理由摘示のとおりである。

七、控訴人等の原判決事実摘示第四の主張について案ずるに、被控訴人等の本訴請求が、単に仮処分命令に藉口し不当の利益を収めんとする意思に出でたものであることは所論の事情から直にこれを推断し得ないのみならず、この点を認めるに足る証拠はない。その他所論の事情は前認定の事実に徴すると被控訴人等の本訴請求を不当とするに足らない。論旨もその理由がない。

八、控訴人等の前掲登記嘱託書編綴による仮処分の効力は民事訴訟法の規定による登記簿記載のない限り控訴人等に対抗し得ない旨の主張につき案ずるに、前示改正勅令第四条の二第四項によれば、登記嘱託書が申請書綴込帳に編綴されたときは登記すべき事項については編綴の時に登記があつたと同一の効力を有することが明白であつて、右効力は改正勅令の廃止によつて消滅するものでなく、従つて本件仮処分の登記嘱託書編綴による登記の効力は依然存続するものであることは前示のとおりである。控訴人等の右主張が、右は命令をもつて民事訴訟法の規定即ち処分禁止の仮処分は登記簿にその禁止を記載することによつて効力を生ずる旨の規定を改廃したもので、憲法の精神に反するものであるとの趣旨のものであるとするも、当時施行の不動産登記法第七十二条の規定の趣旨等に徴するもこれを容認し難い。論旨も結局これを採用することができない。

以上の次第で被控訴人等の本訴請求は前認定の範囲において結局これを正当とすべく(但し別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(イ)の各点を順次直線をもつて連絡した範囲の土地部分については未だ分筆登記のされていないことが明白であるから、この部分はそれぞれこれに関連する土地の所有登記名義人において先ずその所有名義の土地の分筆登記を経由することを要することは勿論である。又原判決主文中四十三号宅地七十四坪一合とあるのは四十三号宅地七十四坪一勺の誤記と認める。)原判決は相当で本件控訴はその理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第九十三条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村木達夫 高橋雄一 佐々木次雄)

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